「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」を見ましたか?

薬剤師の鈴木です。

薬剤師塾とは?
弊社MCSでは、薬剤師資格を持つ「キャディカル薬剤師」のキャリアアドバイザーが、調剤の現場を離れても薬剤師としての自己研鑽を怠らず、求職者である薬剤師の皆様により良いキャリアのご提案ができるよう、「薬剤師塾」という名前で社内セミナーを定期的に行っています。私はその社内セミナーの講師をしている者です。

7月17日に日本薬剤師会から「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(第1.0版)」策定の発表があったのはご存知でしょうか? これは薬機法や薬剤師法が改正され「フォローアップ」が義務化されたことを受けて、患者フォローアップの基本的な考え方等を示したものです。

令和2年の調剤報酬改定で新設された調剤後薬剤管理指導加算等、患者フォローアップが算定要件に含まれる調剤報酬も登場して、どのようなことを実施すればいいのか悩んでいる薬剤師も多いのではないでしょうか?

そこで、今回はこの「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(第1.0版)」の内容の解説を中心に患者フォローアップについて社内セミナーを行ったので、その内容を本ブログでもまとめてみたいと思います。

薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引きの概要

最近、患者フォローアップがよく話題になるのは薬剤師法が改定され、第25条の2第2項に

「薬剤師は前項に定める場合のほか、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護にあたっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない」

と規定されたためです。

患者フォローアップ自体はもう何年も前から取り組みが求められていたので、それ自体は目新しいものではありませんが、薬剤師法に明記されたこと、そして関連する調剤報酬が増えてきたことが話題のもとになっているのです。しかし、現場からは

「何をやったらいいのかわからない」
「誰を対象にやればいいのかわからない」

等の声があがっていたので、日薬がこの手引書を作成したのですね。まぁまぁ素早い対応といえますね。できれば3月ころまでにはほしかったですけど。

この手引きを作成した目的は「全ての薬剤師が共通した基本認識に立って業務を行うこと」とされています。なので、薬局で働く薬剤師としては必読ですね。ちなみに、薬剤師法では「必要があると認める場合」に行うこととされているので、すべての患者に対してフォローアップが求められているわけではありません。薬剤師、個人個人が必要性を判断し、実施していくことが求められています。

では、さっそく手引書の中身を解説していきたいと思います。

薬剤使用期間中の患者フォローアップとそれを行う上での基本的考え方

まずは、「薬剤使用期間中の患者フォローアップとそれを行う上での基本的考え方」からですね。題名にある通り、ここでは患者フォローアップについての基本的な考え方と、患者フォローアップを行う上での基本的な考え方がまとめられています。

ここでは、薬剤使用期間中の患者フォローアップを以下のように規定しています。

患者の来局時だけでなく、調剤した薬剤の使用期間中に適切な形で薬剤の使用状況、併用薬(一般用医薬品等を含む)、患者の状態や生活環境等を把握するとともに、薬学的知見に基づく分析・評価から必要な対応を実施することにより、薬剤の使用期間中を通じて、患者が安心できる最適な薬物療法を提供する薬剤師の行動を指す。

薬剤使用期間中の患者フォローアップの流れ

ここでは、

  1. 初回来局時
  2. 薬剤交付から次回来局まで
  3. 次回来局時(以降2、3の繰返し)

を一連のサイクルと捉え、継続的な薬学管理を通じて得られた情報の確認、分析・評価の結果を、今後の薬物療法や薬学的管理指導に適切に反映していくことを意識するとしています。そのうえで、1)~3)の各工程におけるポイントの概説がなされています。

薬剤交付から次回来局までのフォローアップの実践

次章で詳しく解説します。

薬剤交付から次回来局までのフォローアップの実践

ここでは今回の法改正で特に焦点となっている「薬剤交付から次回来局まで」のフォローアップを実践するうえでの考え方や実施すべき事項等について具体的に解説しています。ポイントと思うことだけを以下にまとめます。

フォローアップについて

次回来局時までのフォローアップは、

  • 薬剤師が薬学的知見に基づいて判断するものであり、必ずしも患者等の同意を前提としない。
  • 薬剤師が必要な確認を行おうにも、患者等の協力がなければ事実上実施は困難である。薬剤師は、患者等にあらかじめその意義・内容を丁寧に説明し、理解を得るよう努めること。
  • 「法律で決まった」「実施するよう指導された」等の非本質的な説明は厳に慎むこと

とした上で、薬剤交付から次回の来局時までの間の状況の経過(変化)に注目するものであるから、使用中の薬剤や併用薬(OTCを含む)の確認のみならず、必要に応じて、疾患(原疾患、既往歴、合併症等)、または家族や就学・就業等を含めた生活環境等、使用期間中に状況変化を及ぼすと思われる点について確認し、薬学的知見に基づき分析・評価をしたうえで総合的に判断するとしています。

つまり、「ハイリスク薬に該当する」といった情報のみに基づいて機械的・一律に判断するものではなく、患者ごとに個別に必要性を判断して行います。

手引きの中で「検討するうえでの要素」として以下の項目が示されています。

  • 使用薬(ハイリスク薬 他)
  • 併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品を含む)
  • 積極的に摂取している食品や嗜好品(健康食品、酒・タバコ 他)
  • アレルギー歴(医薬品、食品 他)、副作用歴
  • 疾患(原疾患、既往歴、合併症及び他科受診で加療中の疾患を含む)
  • 臨床検査値(腎機能、肝機能 他)
  • 薬剤等の使用状況(残薬の状況を含む)
  • 薬剤使用中の体調の変化
  • 年齢・性別
  • ⾝⻑・体重
  • 妊娠・授乳状況(女性)
  • 職業
  • 生活の特性
  • 患者特性(薬識・認識力、生活機能 他) 等

また「注意を要すると考えられる患者例」として

  • 薬剤が適切に使用されていることを、次回来局時までに確認しておく必要があると考えられる場合
      • 治療有効域が狭い薬剤で、患者の生活環境から飲み忘れの懸念がある
      • 長期的なアドヒアランス維持が重要となる薬で、認知機能の低下から飲み忘れ等が頻繁に発生する懸念がある
      • 身体機能の低下からデバイスが正しく扱えることに継続して注意する必要がある、等
  • 患者の身体状態から、副作用の発現等に継続的に注意する必要があると考えられる場合
      • 腎機能の影響を受ける薬剤で、原疾患・合併症等から副作用の発現に特に注意を要する
      • 特定の要素において副作用の発現頻度が増すことが知られている薬剤であり、今後の状態の変化に注意を要する
      • 抗悪性腫瘍剤など、初回投薬時においては特に注意を要し、またその後も患者の身体状態等から継続的に副作用の発現に注意を要する、等
  • 患者の生活習慣、生活像に係る情報等を踏まえ、定期的な状況の確認が必要な場合
      • 看護人・介護人や患者の生活環境の変化により、薬物療法の継続に問題が生じないか確認する必要がある、等

をあげ、これらを踏まえて検討したうえで、薬学的知見に基づき実施する患者フォローアップ内容について患者等に説明し、理解を得るとともに連絡先を確認するとしています。

患者等への確認のタイミングについては、患者像、使用薬剤等により様々であり、患者の病識・薬識や生活環境も含めた患者像及び薬剤の持つリスク(有害事象等)の発現頻度・好発時期等に関する安全性情報を踏まえて、これらを的確に判断する必要があります。

「新規患者には〇週目に自動で定型文を送信」「ハイリスク薬を使用中の患者は×週間毎にアラート」といった一律の運用は有益でないばかりか患者等の信頼を損ねることにもなりかねないので、実施に当たっては慎重に検討することが求められています。

患者等への確認のタイミングについて

患者像、使用薬剤等により様々であり、患者の病識・薬識や生活環境も含めた患者像及び薬剤の持つリスク(有害事象等)の発現頻度・好発時期等に関する安全性情報を踏まえて、これらを的確に判断する必要があります。

「新規患者には〇週目に自動で定型文を送信」「ハイリスク薬を使用中の患者は×週間毎にアラート」といった一律の運用は有益でないばかりか患者等の信頼を損ねることにもなりかねないので、実施に当たっては慎重に検討することが求められています。

患者等への確認方法について

対面(来局・訪問)のほか、電話やFax、電子お薬手帳やSNS等ICTの活用が紹介されており、いずれの方法にするかは「目的に照らして適当か」「双方向性が維持されているか」が重要になると考えられるので、薬剤師として適切に判断するとされています。

例としては、

  • これまで使用したことがない薬剤を開始する場合で、使用状況をはじめ生活機能への影響等広範な内容を確認したい場合には対面や電話等
  • 長期的なアドヒアランス維持が中心である場合はICTの活用(「忘れずに服用できていますか?」「使用するうえで問題などはありませんか?」といったメッセージを発信し、患者等から回答を得る等)

などです。ただし、いずれの方法にせよ、薬剤師と患者との双方向性が維持されている必要があります。

患者等への確認事項について

必要に応じて患者等に確認する事項のうち、前回の薬学的知見に基づく介入後の結果と前回から今回の間の状況の変化について特に意識するとされています。

確認事項は必要に応じて薬剤師が取捨選択するものですが、具体的には以下のようなものが挙げられています。

  • 薬剤等の使用状況(残薬の状況を含む)
  • 使用中の薬剤の効果
  • 薬剤使用中の体調の変化
  • 患者基本情報の変化
  • 併用薬や食品・嗜好品との相互作用による影響
  • 生活機能への影響
  • 生活の特性の変化
  • 使用中の薬剤に対する意識(先入観、不安感等) 等

確認にあたっては、単に「調子はいかがですか?」といったものではなく、的確かつあいまいさのない形で行うこととされています。

得られた情報を薬学的知見に基づいて分析・評価しますが、その際、薬物療法の観点からは、使用中の薬剤で問題が発生していないことも重要な評価となります。そして、分析・評価した結果を今後の継続的な薬学的管理に反映することが最も重要だとしています。

分析評価の結果、薬学的介入が必要と考えられる場合には、問題解決のために患者等に対して必要な情報提供又は薬学的管理指導を行うとともに薬剤師の氏名を患者等に伝えます。

また、副作用の発生が疑われる等、薬物療法の維持に支障が生じる(あるいは生じた)場合は、速やかに処方医等に情報提供を行い、連携して対応するようにします。

処方提案や残薬調整についても、緊急性等を勘案しながら電話、服薬情報提供文書等を用いて処方医等に連絡します。

これら以外の場合においても、必要に応じて医師等に文書や電話等により薬剤の使用状況等に関する情報提供を行い、特に情報提供や処方提案に当たっては薬剤師からの一方的なものとならないよう、医師と十分な意思疎通を図り、医師が必要とする情報や内容を踏まえたうえで実施するよう意識することが求められています。

記録について

患者に確認した事項、薬剤師が分析・評価した結果と対応(患者への情報提供・指導)等については、薬剤師法により調剤録に記録することが決められています。

記録に当たってはSOAP形式にこだわることなく、記録しておくべき要点が何かを意識し、「簡潔に要点を記録する」「記録する内容にメリハリをつけ重要な事項を浮き彫りにする」という工夫を行うよう求められています。

フォローアップが算定要件に含まれる調剤報酬

令和2年調剤報酬改定で新設された調剤後薬剤管理指導加算と特定薬剤管理指導加算2はフォローアップが算定要件に含まれています。どちらもなかなか簡単には算定できない加算ですが、今後、フォローアップが算定要件に含まれる加算が増えることも予想されます。

条件をみたせそうな場合には、積極的に算定して、フォローアップ経験を蓄積していきましょう。

以下、各加算の算定要件の抜粋を記載します。

  • 調剤後薬剤管理指導加算(月1回まで、30点)
    • 糖尿病患者に新たにインスリン製剤又はスルフォニル尿素系製剤が処方等された患者に対し、地域支援体制加算を届け出ている保険薬局の保険薬剤師が、調剤後に電話等により、その使用状況、副作用の有無等について患者に確認する等、必要な薬学的管理指導を行うとともに、その結果等を保険医療機関に文書により情報提供した場合に算定する
  • 特定薬剤管理指導加算2(月1回まで、100点)
    • 連携充実加算を届け出ている保険医療機関において、抗悪性腫瘍剤を注射された悪性腫瘍の患者に対して、抗悪性腫瘍剤等を調剤する保険薬局の保険薬剤師が以下のアからウまでの全てを実施した場合に算定する。
      • ア 当該患者のレジメン(治療内容)等を確認し、必要な薬学的管理及び指導を行うこと。
      • イ 当該患者が注射又は投薬されている抗悪性腫瘍剤及び制吐剤等の支持療法に係る薬剤に関し、電話等により服用状況、副作用の有無等について患者又はその家族等に確認すること。
      • ウ イの確認結果を踏まえ、当該保険医療機関に必要な情報を文書により提供すること。

引用:厚労省HP掲載資料より

まとめ

「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」の「はじめに」には、「全ての薬剤師が、本手引きを参考として患者フォローアップにより一層取り組むとともに、地域医療の中で薬剤師が果たすべき役割を常に意識して日々の業務に取り組むことを望む」とあります。

患者フォローアップは「法律で決められている」からおこなうのではなく、国から、そして患者から求められるからおこなっているんだ、と言えるように取り組んでいきましょう。

また、本手引きには薬局医薬品、薬局製造販売医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品を販売する場合の販売後フォローアップの考え方に関する項目もあるので、一度確認しておくことをお勧めします。

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