授乳中の薬ってどうすればいいの? 授乳やめたほうが良い? 授乳婦と薬についてのまとめ

授乳婦と薬

薬剤師の鈴木です。

薬剤師塾とは?
弊社MCSでは、薬剤師資格を持つ「キャディカル薬剤師」のキャリアアドバイザーが、調剤の現場を離れても薬剤師としての自己研鑽を怠らず、求職者である薬剤師の皆様により良いキャリアのご提案ができるよう、「薬剤師塾」という名前で社内セミナーを定期的に行っています。私はその社内セミナーの講師をしている者です。

先日、とある薬剤師歴2年目の若い薬剤師から、下記のような相談を受けました。

『小児科の門前薬局に勤務しているせいか、子どもの薬をもらうついでに「授乳中だけど薬ってのんでいいのかな?」とか、「他の薬局でもらったんだけど、これって授乳中に飲んで子供に影響ないかな?」ってよく質問されるけど、たいていは添付文書に「服用中は授乳をさけること」とかしか書いてなくて、参考にならなくて困っている

授乳婦への薬物療法について、大学で詳細に勉強する機会はまずなかったと思います。また、参考とする資料が薬局に置いてなかったり、置いてあっても質問された薬に関する情報がなかったりして、授乳婦への投薬に関する問い合わせに対して困っている薬剤師は多いのではないでしょうか?

今回は、授乳婦と薬についての簡単な考え方と、薬剤師が知っておいた方が良い書籍やツール等を紹介しようと思います。

実は少ない? 授乳婦が飲んではだめな薬

授乳婦に関してある程度信頼性の高いインターネットのサイトとしては、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」が挙げられます。このサイトには「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」のリストが公開されていますが、いくつあると思いますか?

実はたった4つなんです。

もちろんサイト上には「記載されていない薬が、すべて安全な薬ではありません」とも記載されているので、実際にはほかにもあると思いますが、それでも少ないと思いませんか?

ちなみにこのサイトには「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」のリストも公開されていて、こちらのリストには添付文書上「乳児に下痢がみられたとの報告がある」ため「授乳を避けることが望ましい」とされているプルゼニドも掲載されています。

それを考慮すると、やはり授乳婦が飲めない薬って実は少ないかもしれないんです。

プルセニドの添付文書より

プルセニドの添付文書より

大分県薬剤師会が作成しネット上で販売もしている「母乳とくすりハンドブック改訂3版」にざっと目を通しても、「乳児に有害事象を及ぼす可能性があり注意が必要である(推奨されない)」と「薬剤の影響がある間は授乳を中止する必要がある」に分類される薬はほとんどありません。

薬剤師は添付文書の情報をかなり重視してしまう傾向にあるので、本当は授乳中でも安全に飲めるのに、添付文書を見て注意が記載されていると「服用中は授乳を避けてください」と言ってしまうんですよね。

でも、授乳を中止してって言われても「うちの子はミルクを飲んでくれないし……」などの理由で困っているお母さんって多いんですよ。授乳を中止できないから、仕方なく自分は薬を飲まないようにしている、なんて話を耳にすることもあります。

授乳中でも安全に飲める薬があるなら、我慢せずに、しかも不安を感じずに飲めるよう情報提供すべきだと思いませんか?

授乳を継続することのメリット

2016年に有名な医学雑誌である「The Lancet」で母乳育児の特集がありましたが、その中で

『母乳が子どもに与える影響として、感染症の罹患率や死亡率が低下し、将来の肥満や糖尿病の発症を予防する』

とされています。また、母乳を与える母親にとっても乳がん、卵巣がん、糖尿病のリスクが減少するとも紹介されています。

現在では上記に加え、母乳で育った子供はワクチンによる免疫獲得能が高い、潰瘍性大腸炎や1型糖尿病などの自己免疫に関連した疾患の発症リスクを低下させる、認知機能が高くなるなどのメリットが報告されています。母親にとってのメリットも骨粗鬆症、関節リウマチなどのリスクを減らし、産後の肥満を予防したり睡眠の質を高めるなどが報告されています。

そんなメリットの多い授乳ですが、一時的に、例えば3~7日程度中止すると母乳の分泌が止まってしまうことがあります。そうなってしまうと授乳を再開できなくなりますし、それだけでなくホルモンバランスが変化し、母親にうつ症状がでたり乳腺炎になったりします。

こんなにもメリットがある授乳を、添付文書に「母乳に移行することがあるので授乳を中止させること」と記載があるだけで中止させるのは避けたいですよね。薬の専門家である薬剤師としては、データをもとに、母乳に移行するとしてもどの程度移行するのか?それは飲んだ子供に害がでるレベルなのかを判断していきたいところです。

薬剤師が知っておきたい書籍やツール等

とはいえ、データをもとに評価するには当然知識が必要なわけですが、この分野は大学でもあまり習うことがなく、苦手としている薬剤師は多いと思います。

現在ではこの分野に関する良書が多数あるので、今回いくつかご紹介します。是非、手に取ってみてください。

書籍

よくある不安や疑問に応える妊娠・授乳と薬のガイドブック(じほう)

よくある不安や疑問に応える 妊娠・授乳と薬のガイドブック

授乳婦に対する薬物投与に関してしっかり学びたい薬剤師にお勧めの1冊。

母乳分泌の仕組み、母乳育児のメリットに始まり授乳による乳児への薬の移行にかかわる因子(母体への投与量・投与方法、薬の脂溶性、分子量、M/P比、蛋白結合率等)の解説などが記載されています。

また、豊富なケーススタディと解説も紹介されいるのがよいです。しっかりと学習するのにおすすめですね。

母乳とくすりハンドブック改訂3版(大分県薬剤師会)

母乳とくすりハンドブック改定第3版

医薬品ごとに◎○△×☆で評価してあり、わかりやすい。

RID、M/P比、MWなど薬剤師が乳汁中への薬剤移行を判断するためのデータがあります。授乳婦から相談をうけ、すぐに調べる時に役立つので薬局に備えておきたい1冊です。

飲んで大丈夫?やめて大丈夫? 妊娠・授乳と薬の知識 第2版(医学書院)

飲んで大丈夫?やめて大丈夫? 妊娠・授乳と薬の知識 (第2版)

Q&Aになっていて読み進めやすい。

サイト・アプリ

LactMed

米国国立医学図書館が運営するサイト。専門担当官によりピア・レビューされたデータベース(随時更新)。

英語のみではありますが、情報が豊富であり、是非参考にしたいサイトです。無料のアプリもあり、是非導入しておきたいですね。

認定制度

授乳婦に対する薬物投与に関して興味を持ったけど、本を買って自分で勉強するのは苦手という方は、取得するためのハードルは高いですが、日本病院薬剤師会の「妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師」の取得を目指してみるのも良いですね。なんとなく勉強する、よりは資格を取得するために勉強するほうが長続きしやすいですから。

ただ、薬局に勤めている薬剤師の方は取得できないので、各都道府県薬剤師会が何か取り組みをやっていないか調べてみてはどうでしょうか?

私が暮らしている愛知県では、「妊娠・授乳サポート薬剤師」を養成する取り組みがあります。

1年間かけて何度か研修に参加したり、講演を聞きに行ったり、レポートを提出したりし、最後には筆記と実技(患者対応)の試験があり、なかなか大変ですが、授乳婦や妊婦に対する薬物療法の考え方をしっかりと勉強できる非常にためになる研修でした。

私も数年前に「妊娠・授乳サポート薬剤師」になりましたが、今でも受講してよかったなぁと思っています。今でも授乳婦の方から相談を受けることがありますが、受講前と違って自信をもって応えることが出来るようになったと自負しています。

以前は「添付文書には…」とはっきりしないような感じで答えてましたが、今は「ネットなどには授乳中はダメって書いてありますが、●●などのデータから授乳は問題ないと考えられている薬です。安心して飲んで大丈夫ですよ」なんて答えることも。お母さんの不安そうな顔が変わるのをみると、ちょっと達成感のようなものを感じちゃいます。

まとめ

インターネット上には不確かな情報が多くあり、ネットを検索して不安になり相談してくるというケースが増えています。「対物業務から対人業務へ」との方向性が示されているように、今後薬剤師として活躍していくには、より専門的な知識を有し、患者に接することができる薬剤師が求められます。

また地域住民の健康をサポートする役割を担っていくためには小さな子供を抱えるお母さんへのサポートを適切に行えることは重要ですし、意義のあることだと思います。

専門性を身に着けようと思っている方は「授乳婦」という切り口から専門性を高めてみてはどうでしょう?

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