薬剤師の鈴木です。
覚せい剤取締法の一部が改正され、2020年4月1日に覚醒剤取締法が施行されたのはご存知の方が多いと思います。
ただ、変わるということは知っていても、じゃあ何がどう変わったのか?そして薬局で従事するにあたって注意することは何なのか?イマイチわかっていないという方もいらっしゃると思います。
薬局に勤務する薬剤師に必要な情報という視点で、先日、弊社MCSにて社内セミナーを行った内容をまとめてみます。
目次
覚醒剤取締法改正の主なポイント
今回の法改正で変更になったのは主に以下の6つです。
- 「覚せい剤」の表記が「覚醒剤」に改められた(例. 覚せい剤取締法→覚醒剤取締法)
- 自身の治療目的の場合は許可を受ければ覚醒剤原料の携帯輸出入が可能となった
- 患者が不要となった覚醒剤原料を薬局で処理できるようになった
- 品質不良等の場合、許可をうければ薬局から覚醒剤原料製造業者等へ医薬品覚醒剤原料を譲渡できるようになった
- 調剤済みのものに限り、都道府県職員の立会いなしに廃棄が可能になった
- 帳簿の作成が義務化された
簡単に、1つずつ確認していきましょう。
1.表記方法の変更
これは薬局に従事するうえではあまり影響がないですね。ただ「せい」が漢字で書くことに変わっただけです。
2.携帯輸出入が可能となった
簡単にいうと、海外旅行に行くときに覚醒剤原料を持っていけるようになったということです。
今までは、たとえ治療に必要な薬だったとしても、エフピー等の覚醒剤原料は海外に持ち出すことも、帰国時に国内へ持ち込むこともできませんでした。なので、海外旅行をあきらめざるを得なかった患者もいました。
それが今回の改正で、あらかじめ厚生労働大臣の許可を得ておけば、自己の疾病の治療目的で覚醒剤原料を携帯して出入国することができるようになりました。
3.不要となった覚醒剤原料を薬局で引き取れるようになった
今までは、飲まなくなったり患者が亡くなられたりして不要となった覚醒剤原料を、患者本人やご家族が薬局にもって来たとしても、受け取ることが法律上できませんでした。廃棄方法を伝えて、本人やご家族に廃棄してもらわなくてはいけなかったんです。
これが今年の4月から、不要となった薬を薬局で引き取り、廃棄できるようになりました。
薬局が処理する場合ですが、自分のところで調剤した覚醒剤原料でなくても、つまり他の薬局で調剤された覚醒剤原料でも大丈夫です。ただし病院や診療所の場合は、自分のところで交付した覚醒剤原料の場合しか処理できないので、この違いも知っておいたほうが良いですね。
4.不良品の場合はメーカーに返品できるようになった
今までは、いったん納品されたものは返品だけでなく、他店への移動もできませんでした。しかし今回の改正で、あらかじめ許可を得れば以下のような場合には返品が可能になりました。
覚醒剤原料取扱者は、病院・薬局等の開設者が事前に地方厚生(支)局長の許可を受けた次のいずれかに該当する覚醒剤原料に限り、譲り受けることができます。
- 全部又は一部が不潔な物質若しくは変質した物質から成っているもの
- 異物が混入し、又は付着しているもの
- その容器又は包装に破損が生じているもの
- 覚醒剤原料又はその容器若しくは包装に異常が生じ、又は生じているおそれがあるもの
- 治験又は臨床研究において使用する予定であった覚醒剤原料のうち、当該治験又は臨床研究に使用する必要がなくなったもの
ただし、不動薬だからという理由での返品は今まで通り認められていません。また、同一開設者の店舗間での移動も認められていないので注意が必要です。
5.調剤ずみの覚醒剤原料の引き取り・廃棄が可能になった
今までは、調剤ずみの覚醒剤原料を引き取って廃棄することがそもそも法律で禁止されていたのが、今回の改正によってそのようなケースがでてきたため、その時のルールが決められたということです。
調剤済みの覚醒剤原料は都道府県職員の立会いなしに廃棄できると決められましたが、廃棄に当たっては他の薬局職員(管理薬剤師等)が立ち会うことが望ましいとされています。また、廃棄後30日以内に都道府県知事に廃棄届出書を提出する必要があります。
6.帳簿の作成が義務化された
基本的に、これまで「記録することが望ましい」とされてきた項目を踏襲していますが、今回の改正で開設者に対して、覚醒剤原料に関する帳簿の作成が義務化されました。
帳簿には医薬品覚醒剤原料の品名・数量・年月日を記載し、最終記入日から2年間保存しなくてはいけません。なお、患者またはご家族から調剤済みの覚醒剤原料を引き取り、廃棄した場合は、患者またはご家族の氏名も併せて記録することが求められています。
薬局薬剤師が知っておかなければいけないこと
一部、繰り返しになりますが、重要なので確認しておきましょう。
1.携帯輸出入
覚醒剤原料を服用中の患者に対しては、海外旅行にいく前には許可の申請が必要であること、また、出国または帰国する場合にはその許可証を税関において提示する必要があることを伝えましょう。
許可申請に必要なのは「医薬品である覚醒剤原料携帯輸入(輸出)許可申請書」と医師の診断書で、地方厚生(支)局麻薬取締部に提出します。
2.調剤済み覚醒剤原料の廃棄
- 調剤済み覚醒剤原料とは次のような場合のものである。
- 患者が不要になり、患者から譲り受けた場合
- 患者の死亡により相続人等から譲り受けた場合
- 再入院。転入院の際に患者が持参し、施用する必要がなくなった場合
- 調剤済医薬品覚醒剤原料を引き取ったときは、「交付又は調剤済みの医薬品である覚醒剤原料譲受届出書」を都道府県知事に対しすみやかに届け出る
- 調剤済み覚醒剤原料を引き取った場合は医薬品覚醒剤原料の品名・数量・年月日のほかに、患者またはご家族の氏名も併せて帳簿に記載する
- 調剤済み覚醒剤原料は都道府県職員の立会いなしに廃棄できるが、廃棄に当たっては他の薬局職員(管理薬剤師等)立ち会いのもと複数人で行う。
※調剤済み覚醒剤原料以外の覚醒剤原料の廃棄は今まで通り都道府県知事へ事前に届け出をし、都道府県職員の立会が必要 - 廃棄は焼却その他の覚醒剤原料を回収することが困難な方法により行わなければならい。「その他の方法」については希釈、その他の薬剤との混合などが考えられる。
- 廃棄後30日以内に都道府県知事に廃棄届出書を提出し、帳簿へ廃棄した旨を記載する。
3. 帳簿
帳簿には以下の内容について、医薬品覚醒剤原料の品名・数量・年月日を帳簿に記載し、最終記入日から2年間保存すること。
- 当該病院・薬局等の開設者が譲受したもの
- 当該病院・薬局等の開設者が廃棄したもの
- 当該病院等で使用したもの
- 当該病院・薬局等の開設者が譲渡したもの
- 事故届を提出した場合は届け出たもの
まとめ
覚醒剤原料や麻薬など、規制の厳しい医薬品の取り扱いルールは「知らなかった」ではすみません。
普段何気なく行っている納品、検品、保管、調剤、廃棄などの業務についても、今回の改正を機に見直してみてはいかがでしょうか?
また、覚醒剤原料だけでなく麻薬、そして向精神薬なども併せて確認してみましょう。向精神薬の中には譲渡先(薬局)の住所の情報が譲受書に必須のものもあります。
そういわれて何が対象なのかわからなかった方は見直しのチャンスです。確認してみましょう。