薬剤師の鈴木です。
新型コロナの感染拡大の防止対策の一環で行われた休校や外出自粛の影響で、10代の望まぬ妊娠が増加しているというニュースや報道が5月、6月ころから増えています。
このニュースの中では、「親を含め誰にも相談できずに悩んでいるケースが多い」との指摘もされています。地域の健康相談窓口としての役割を求められる、薬局に勤務する薬剤師は、こういったご相談に対する受け皿にも是非なっておきたいところです。
そこで、そのために必要な情報について、弊社MCSにて社内セミナーでお伝えした内容を本記事でまとめてみたいと思います。
緊急避妊法あれこれ
緊急避妊法とは、避妊を行わなかった、避妊に失敗した、性暴力被害を含め性交を強要されたなどの、望まない妊娠の危険性を減らすために行われる方法です。
レボノルゲストレル(ノルレボ錠等)
いくつか方法はありますが、日本で唯一緊急避妊法として承認されていて、もっともよく用いられる方法としては、緊急避妊薬(アフターピルともいわれる)としての黄体ホルモン製剤であるレボノルゲストレル(ノルレボ錠等)の服用です。ノルレボ錠は性交から72時間以内に服用することで高い確率で避妊が期待でき、安全性も高いとされています。
- WHO報告
- 妊娠率:1.34%
- 妊娠阻止率:84%
- 国内報告
- 妊娠率:2.1%
- 妊娠阻止率:85%
ただ、レボノルゲストレルを72時間以内に服用しても避妊効果は完全ではない為、妊娠する可能性を説明しておくことが重要です。月経が予定より7日以上遅れる、あるいは通常より軽い場合は妊娠の可能性を考慮し、医療機関を受診するよう指導しておく必要があります。
銅付加子宮内避妊具(Cu-IUD)
レボノルゲストレル服用以外の方法としては、銅付加子宮内避妊具(Cu-IUD)を挿入するという方法もあります。
これは性交後120時間以内に挿入することで、妊娠率が1%未満とこちらも非常に効果が高いです。また、そのまま留置すれば継続的な避妊法として使用できます。妊娠経験のある女性には選択肢の1つになりますね。
ヤッペ法
レボノルゲストレルが承認される前はヤッペ法と呼ばれる、エチニルエストラジオールとノルゲストレル配合剤(プラノバール等)を用いる避妊法が行われていました。
しかしレボノルゲストレルに比べて有効性が低いので、現在はあまり用いられることはありません。
選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)
海外では、選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)を性交後120時間以内に投与する方法が第一推奨となっています。
各種避妊法使用時の1年間の失敗率(妊娠率)
各種避妊法の使用開始1年間の失敗率(妊娠率)は下図のとおりです。経口避妊薬や薬剤付加子宮内避妊具、避妊手術等、女性が取り組める避妊法の効果が高いことが一目瞭然ですね。
緊急避妊法はその名の通り、緊急用であり、やはり原則としては一般的な避妊法を普段から行うことが重要です。ただし、いずれの方法も理想的な使用方法であっても100%ではないことを押さえておく必要があります。
例えば、コンドームのみでは正しく使用していたとしても1年間で2%程度の妊娠率であることは知っておきたいところです。ほぼ確実な避妊を望むのであれば低用量経口避妊薬(低用量ピル)の方がコンドームよりおすすめです。
緊急避妊薬を投薬する場合には、これらの一般的な避妊方法についての情報提供、特に低用量経口避妊薬についての情報提供を積極的に行っていく事が重要です。
世界的には繁用されている低用量経口避妊薬ですが、日本ではあまり使用されていません。例えば既婚女性の主な避妊法の国際比較をみると、低用量経口避妊薬を使用している割合は世界平均8.9%に対して、アメリカは16.3%、ドイツ37.2%、日本1.0~3.0%といわれています。
国内で低用量経口避妊薬を使えない、使いたくない理由を調査した報告によると、5割を超える女性が「副作用が心配(50.5%)」、ついで「毎日服用するのが面倒(9.0%)」「すでに使っている避妊法で十分(7.6%)」となっています。
副作用に関してはメディアによるネガティブキャンペーンの影響が大きいので、正しい情報を発信していく事が求められます。
また、低用量経口避妊薬以外の避妊法の妊娠率などの情報も発信していく事が重要です。
緊急避妊薬の入手方法
レボノルゲストレルは重大な副作用のない安全性の高い薬で、医学的管理下におく必要はないとされており、海外では76か国で医師の処方なしに薬局で薬剤師の管理の下で販売されています。しかし、日本では2017年に一般用医薬品化についてパブリックコメントを募集し、賛成が大多数を占めましたが、最終的に見送られました。
そのため現状、日本で緊急避妊薬を入手するためには対面診療またはオンライン診療による医師の診察と処方箋が必要となっています(2020年6月時点)。
ここで「オンライン診療」に関してですが、オンライン診療による緊急避妊薬の処方箋を受け付けるために、薬局は「オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤に関する研修会」を受ける必要があります。しかし新型コロナの影響で、研修の開催が現在ストップしています。ただ、2020年4月からは新型コロナ感染症への対応として電話やオンライン診療による服薬指導が時限的・特例的に可能となっています。
※オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤に関する研修会
「オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月厚生労働省・令和元年7月改訂)」において、緊急避妊に関する診療については、産婦人科医または厚生労働省が指定する研修を受講した医師が初診からオンライン診療を行うことは許容され得ると示され、その際の薬局における緊急避妊薬の調剤については、その薬剤の特性、患者の状況等に鑑み、患者は研修を修了した薬剤師による調剤を受けるよう求められていることから、対応できる薬剤師を養成し応需体制を整備するための研修会
望まぬ妊娠をした場合の相談窓口
慈恵病院が運営している24時間電話やメールで相談できる「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談窓口」があります。望まない妊娠により悩みを抱えている方のための相談窓口で、誰でも無料で利用することが出来ます。
一般社団法人全国妊娠SOSネットワークのホームページに「全国のにんしんSOS相談窓口」のリストが公開されています。
ここには
- 自治体の事業による妊娠SOS相談
- 民間団体の独自事業による妊娠SOS相談
- 民間養子縁組機関(養子縁組と決めていなくても妊娠SOS相談対応可能)
の連絡先や開設時間が掲載されています。
緊急避妊薬を処方している医療機関の検索サイト
厚生労働省の委託事業等を行う日本家族計画協会が運営する緊急避妊薬・低用量ピルを処方している施設を検索できるサイトを紹介します。
協会の調査に回答した、緊急避妊薬、低用量ピルの処方に対応する全国約1500の医療機関の名称が地図上に表示されます。また、現在いる場所付近の医療機関を検索することが出来ます。
ホームページだけでなく無料のアプリも提供されているので、質問されたときのために、ホームページをお気に入り登録したり、アプリをインストールしておくことをお勧めします。
まとめ
避妊法はデリケートな問題なので、相談を受ける機会はそれほど多くないと思います。
しかし、新型コロナをきっかけに10代の妊娠相談が増加している現状、そして現在はコロナのせいでストップしているオンライン診察に基づく緊急避妊薬の調剤に対するニーズの高まりを踏まえると、薬局としては避けては通れない問題だと思います。地域の健康を支える薬局としては、この問題にも積極的に取り組んでいきたいですね。
- 「オンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤に関する研修会」が開催されるようになったら是非参加しましょう!
- 相談を受け付けた際は話をじっくり聞いてあげましょう。責められるのではないかと不安になっている方が多いので、相談窓口などを紹介し、無料で、匿名で相談できる場所を教えてあげましょう!