薬剤師の鈴木です。
新型コロナ感染症対策としてマスクを着用することが、熱中症のリスクを高めるといわれています。
これからの時期、熱中症に対して薬剤師として適切な情報を発信する必要があります。そこで、弊社MCSにて「熱中症」をテーマに社内セミナーを行いましたので、その内容を本記事にてまとめてみたいと思います。
熱中症の症状
日本救急医学会が作成した「熱中症診療ガイドライン2015」において、下図のような分類が示されています。

簡単にまとめると、熱中症とは「暑さによって生じる体調不良の総称」と言えます。
この中で、患者を含め一般の方にお伝えすべき症状としては、先ほどの図の「Ⅰ度」に記載されている「めまい、たちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉がつる」などです。この段階であれば、涼しいところで安静にし、オーエスワンなどの経口補水液や、ポカリスエットなどのスポーツドリンクの摂取で対応することが可能です。
頭痛や吐き気、倦怠感などを伴ってきている場合は、原則として医療機関を受診する事が勧められます。さらに重症化すると意識障害、全身のけいれん、肝腎の機能障害等が起こり、命にかかわってきます。
熱中症に関する各種データ
熱中症で救急搬送された人数および死亡者数
環境省・熱中症予防情報サイトにおける、7月4日時点の最新情報によると、2020年6月22日~6月28日の7日間で、全国で1651名(死者1名を含む)が熱中症により救急搬送されています。
また、総務省の発表資料によると昨年5月~9月に熱中症により救急搬送されたのは95,137人で、5月、6月に比べ7月、8月は一気に人数が増えています。これからの時期は特に注意が必要という事がこれでわかります。


年齢別の熱中症による死亡者数の年次推移(平成7~30年)
厚生労働省が発表している「熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)」をみると、40代半ば頃から増え始め、60代半ば以降、急増していることが分かります。2019年は、熱中症により亡くなられた方の約8割が、65歳以上の高齢者でした。

高齢者の熱中症対策
もちろん熱中症は全世代で注意する必要がありますが、特に高齢者では重症化しやすいと考え、情報提供をしっかり行っていきたいですね。
高齢者が重症化しやすい理由としては、
- 暑さや寒さを感知する機能が低下していることが多く、暑さを感じにくくなり、体温調節する体の仕組みがうまく働かない
- のどの渇きなどに気づかず脱水に陥りやすく、また熱中症の初期症状にも気づきにくい
- トイレの回数を気にするため、水分摂取を控えてしまう
- エアコンの利用を控えてしまう
などが挙げられます。これらを踏まえたうえで、熱中症対策に取り組めるよう情報提供することが重要です。
まず、リスクについて具体的に伝える、ということからですね。そのうえで具体的な対策について情報をお伝えしましょう。例えば、下記のような内容が考えられます。
- 就寝中を含め積極的にエアコンを使用する
- 効率よく部屋全体を涼しくすることが出来るので、エアコンと一緒に扇風機を使う
- のどが渇いていなくても時間を決めて(1時間ごとにコップ1杯等)こまめに水分をとる(※予防で接種するときは水や麦茶などでよい。1日1.2L程度を目安に摂取)
- 温度計や湿度計を目に付くところに設置する(※室温28度、湿度70度を目安に調整)
- 外出するときは帽子や日傘を使用し、飲み物や冷却グッズを持ち歩く。水分はこまめに摂取する
- 外出時はエアコンのきいた喫茶店や公共施設などで休憩するなどして体を冷やす
- 暑い時間帯は外出をさける。可能であれば環境省の「熱中症予防情報サイト」で暑さ指数をチェックする
高齢者の中には、「暑い時間は外出しないようにしているから大丈夫」という方が結構いらっしゃいますが、その場合は、高齢者の熱中症の半数以上が自宅で起きていることを伝えて注意喚起をしましょう。

「新しい生活様式」における熱中症対策
「新しい生活様式」とは、新型コロナウイルス感染防止の3つの基本である
- 身体的距離の確保
- マスクの着用
- 手洗いの実施や「3密(密集、密接、密閉)」を避ける
等を取り入れた日常生活のことで、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために実施が求められています。
しかし、マスクの着用は熱中症のリスクを高めるため、厚生労働省の「新しい生活様式における熱中症予防行動のポイント」の中でも注意喚起がなされています。
マスクに関する要点は、
- 屋外で人と2m以上(十分な距離)離れているときは、熱中症を防ぐためにマスクを外すこと
- マスク着用時は激しい運動を避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給をすること
です。
今はマスクせずに外出すると白い目で見られる気がしますが、今後は「人との距離が確保できる場所ではマスクを外す」が早く常識になってほしいです。そのためにも我々医療従事者が積極的に情報発信をしていく事が重要ですね。
マスク以外に関してはエアコンの使用や涼しい場所への移動、そして日ごろの健康管理などに関してポイントがまとめられています。一度目を通しておくと良いでしょう。
服薬指導こそ、情報提供のチャンス
薬剤師として、熱中症関連の情報提供する機会として一番多いのは「服薬指導」だと思います。
その時に、ただ「熱中症に注意してくださいね」ではあまり役立つ感じではないですよね。例えば、「昨日は熱中症で●●人も救急に運び込まれたみたいなんですけど、〇〇さんは何か対策ってやってます?」のように質問すると、興味を持ってくれる方が少し増える気がします。
できれば、
「〇〇さんが今飲んでいる××って薬なんですけど、普段問題なく飲んでいる患者さんでも、熱中症のような脱水状態になるとひどい副作用がでやすくなったりするので、熱中症対策をしっかりやってくださいね。ところで、今何か対策やってます?」
のように、その患者ごとにアレンジをしたいところです。そうするとより自分事ととらえて対策をとってくれます。
脱水を避けたい疾患や服用薬剤例
- 抗凝固剤や抗血小板薬を服用している患者(血栓リスクが高まる)
- 痛風・高尿酸血症の患者(発作リスクが高まる)
- ARBを服用している患者(脱水をきっかけに急性腎障害などのリスクが高まる)
- リーマス等炭酸リチウム製剤を服用している患者(脱水はリチウム中毒のリスク因子)
- 横紋筋融解症、悪性症候群等、脱水でリスクが高まる副作用の報告がある医薬品を服用している患者
まとめ
これからのしばらくの間は梅雨の合間に突然気温が上がった日など、高温多湿な環境では特に熱中症への対策が必要になります。
今年は十分な新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、こまめな水分補給や休息、室温調整等を行い、熱中症予防に例年以上に注意することが求められています。薬局から時期に合わせた情報発信を行っていき、地域の健康に寄与していきましょう。