自主応募とどっちが良い? 薬剤師が「転職エージェント」を利用するメリット・デメリット

薬剤師の星谷です。

薬剤師であれば、いわゆる転職エージェントへの登録を促す広告を一度は見たことがあるはず。弊社の「キャディカル薬剤師」も、薬剤師に特化した転職エージェントの1つです。

もはや薬剤師は転職するときに使うのが当たり前と言っても過言でない転職エージェントですが、一方で「エージェントを通すと求人企業に紹介手数料が掛かるから、エージェントを通さない応募(いわゆる自主応募)のほうが、採用されやすいし、年収も出やすいんだよね」と考える方もいらっしゃると思います。

実際のところ、どうなんでしょう?

本記事では、私が大手調剤チェーンで薬剤師採用担当をしていたときの経験と、直近のキャリアアドバイザーとしての経験を踏まえて、この点を明らかにしたいと思います。

転職エージェント利用は、ひたすら「楽」

私が大手調剤チェーンで人事担当をしていた頃、中途の薬剤師の入社経路は約8割が転職エージェント経由で、残りの2割がリファラルや自主応募という感じでした。

なぜこれほど転職エージェント経由の割合が多いのかというと、売り手(=薬剤師)優位の状況で、ラクして転職活動を進めたいというニーズが薬剤師側にあるからです。

やったことがある方は分かると思いますが、転職活動というのは、自分だけでちゃんとやろうとするとけっこう大変なんですよね。しかもたいていは現職に在籍しながら、つまり仕事をしながら転職活動をするわけです。

それをいわば、丸投げできる。しかも無料で。自分は基本的に面接を受けたりするだけで、それ以外のことは全部やってくれるので、時間を節約できる。これが、転職エージェントを利用する最大のメリットです。

もう少し細かく見ていきましょう。

自分に合った求人を勝手に探してくれる

求人情報自体は、求人サイトや薬局のウェブサイトなどを見ればいくらでも転がっています。しかし自分で探す場合、あれもこれも気になったり、似たような求人を比較しているうちに迷ったりして、意外と時間が掛かってしまうことが多いのです。

転職エージェントを使えば、その時間と手間をまるっとカットできるわけです。

求人のウラ側や、ネガティブ情報を教えてくれる

自分で探した求人情報というのは、いわば表面的な内容、求人側にとって都合の良い内容が中心となっていることが多いです。これは仕方のないことです。だって「ウチは人間関係が悪いですよ」だなんて、求人情報に書かれるわけがないですから。

転職エージェントは、こういったネガティブな情報や、求人のウラ側に隠された情報を仕入れたいときに特に力を発揮します。

なぜかというと、転職をするということは現職に何かしら不満があるケースが大半ですよね。かつ、面談では転職理由をどの紹介会社でも必ず聞くことになります。そのときに例えば「人間関係が悪いから」という理由を挙げる現職A社の方が複数いれば、必然的に「A社は人間関係が悪いんだな」ということが傾向として分かってしまうからです。

もう少し具体的に挙げると、

  • 募集背景が欠員募集なのか、増員募集なのか?
  • 欠員募集なら、退職が続いている職場ではないか?
  • 管理薬剤師の人柄は? 出身大学は?
  • 店舗の男女比は? 若い人や、子持ちの人は多い?

こういったことも、転職エージェントでは教えてもらえるケースがあるのです。

応募先との交渉・調整を全部やってくれる

面接などで直接、要望を伝えることに苦手意識を持っている薬剤師は多いです。転職エージェントは、そういった「自分では言いにくいこと」も代わりに応募先に伝えてくれます。

また同時に複数の会社へ応募する場合、選考のスケジュールを調整するだけでもかなり手間が掛かります。転職エージェントを利用すると、その辺りも全て丸投げすることができます。

また面接に際しては、応募先の採用担当者が重視していることや、過去の内定者の傾向などを教えてもらうことで、ポイントを押さえた面接対策をカンタンに行うことができます。

ただ前提として、転職エージェントを通したから自分を高く売れるとか、良い条件を引き出せるというのはあまり期待しないほうが良いです。それができるのは、よほど人が足りなくて困っている小規模の薬局だけだと考えましょう。

退職交渉(引き止め阻止)をサポートしてくれる

さらに内定をもらった後も、入社まで継続的なフォローをしてもらえます。

たとえば中小企業の場合、就業条件を書面で取り交わす文化がないことが往々にしてあり、入社後に「こんなはずじゃなかった」と問題になることがあります。転職エージェント経由の場合、紹介手数料の算定の際に採用条件を書面で提示してもらう必要がありますので、必然的にこのような問題は起こらなくなります。

また、人手が足りない企業から転職をする場合、上司や社長から執拗な引き止めに合うことがよくあります。

転職エージェントを利用すれば、そのような場合にもなるべくストレスなくスムーズに退職ができるよう、伝え方や身の振り方をアドバイザーに教えてもらえます。(転職エージェントからすれば、ここで引き止められてしまうとせっかく見込めた紹介手数料がパアになってしまいますから、退職サポートはどの会社も必死にやります)

転職エージェントを使わなくて良いケース

このように転職エージェントを利用することは転職したい薬剤師にとって大きなメリットがあるわけですが、ここからは、逆に転職エージェントを使わなくても良い、自主応募のほうが良いというケースを2つご紹介します。

採用する側の採用意欲が高くない場合

もうご存知だと思いますが、紹介会社は募集先の企業から、紹介者の年収の数割を「紹介手数料」として徴収しています。

紹介手数料の割合は職種などによっても異なりますが、薬剤師の相場は約30%。たとえば理論年収500万円の方をご紹介した場合、500万 × 30% = 150万円(税別)を入社月の末〆で請求する、というのが一般的です。

この150万円というのが高いか安いかは、採用する側がどれくらい採用をしたいか、困っているかによって変わります。例えば、

  • 大学病院など、超人気の病院
  • 薬剤師でなくても入社できる、一般企業
  • 新卒採用が上手くいっている大手の、人気・充足傾向エリア

このような就業先の場合、そもそも150万円も払わなくても代わりの人材が確保できるので、人材紹介会社からエントリーがあった場合は面接をしないけど、自主応募だったらお金が掛からないし、今後の企業展開を考えて一旦、面接まではしておこう」となるケースがあります。弊社のような人材紹介会社からすると、悲しい事実ですが……。

従って、上記のような企業等に絶対に転職したい!という場合は、自主応募のほうが良いということになります。

このような企業への転職を仮にエージェント経由で打診するとどうなるかというと、対応の良いアドバイザーであれば「そこは弊社経由でご紹介ができないので、自主応募でお願いします」と言ってくれます。

ただ、対応の悪いアドバイザーに当たってしまうと「進捗があり次第、ご連絡しますね〜」と言われて、そのまま放置されることがあります。貴重な時間が無駄になってしまいますので、これは避けたいですね。

入りたい企業が決まっている場合

既に入社意思が固く決まっている会社に応募する場合は、転職エージェントを利用する意味が無い……とまでは言いませんが、あまりありません。

例えば、下記に全て当てはまる薬剤師の方が居たとします。

  • どうしても働きたい企業または店舗がある
  • 募集条件について納得している
  • 店舗の内情についても把握できている
  • 内定を貰える自信もある

このような状況で、転職エージェントがサポートできる余地ってほとんど無いですよね。

なお、それでも転職エージェントを使いたいという場合、エージェントからは非常に喜ばれます。なぜなら対応が楽ですぐ売上になるからです。笑

これが、大枠でこういう系統のところを受けたいけれど、具体的にどこが良いかというのは絞れていない、ということであれば、転職エージェントを利用する価値があります。しかし、最初から特定の企業しか受ける気がないのであれば、自主応募でOKです。そのほうが、募集する側も費用負担が少ないですし。

自主応募をする場合の注意点

自主応募を考えている方向けに、気をつけたほうが良いことも書いてみます。前述の、転職エージェント利用のメリットが享受できないというのがまず大きく1つありますが、それに加えてあと3つ、お伝えします。

穿った見方をされやすい

これを書くと脅しみたいな感じになってしまってちょっと嫌なんですが、一般的な薬局の人事の視点からすると、自主応募よりも、転職エージェントから来た求職者のほうが若干、安心感があります。

なぜなら転職エージェント経由の方が「通常ルート」っぽいから。

実際、私が薬局の人事担当をしていたころも、自主応募と、あとハローワーク経由でのエントリーはちょっと変わった人である率が高かったです。

現状、約8割が紹介会社経由で入社するという市場感の中で、残りの2割の選択肢を突いてくる人というのは、よほど決め打ちをした志望度の高い良い人か、あるいは、紹介会社経由で決められないような経歴の人か? 人柄や、志向性が変わった人か? このように、良くも悪くも「何かある人」という、穿った見方になりがち。

とはいえ、だからといって面接を受けさせないとか、そういうことはまず無いのですが、問題はそのような方が面接でうまく自己アピールできなかった場合です。「何かある人かも知れない」→「やっぱり変わった方だった」という感じで、良くない印象を補強されてしまい、不採用になるリスクが高くなります。

したがって面接に自信がない方については、自主応募を避けて転職エージェントを頼るのも一つの手でしょう。

ま、とはいえ「御社しか志望していないので自主応募しました!」とバシッと面接で言えそうであれば、転職エージェントを利用しなくても良いとは思いますが。

採用担当者のコスト意識が低い場合

「紹介手数料が掛からないと、採用されやすくなるのか?」ですが、採用担当者のコスト意識が高ければ、採用の可能性が上がることは実際にあります。小規模薬局で、社長や役員が採用担当者をしている場合に多いです。

具体的には、

「転職エージェント経由だと、この人を採用するのに150万円。今回は自主応募なので、それが無料……う~ん、今の会社の人員充足状況からすると、150万円を出して採用はしないけど、無料なら今後のことも考えて採用しようかな……。」

こんなイメージです。実際、私が薬局で採用をしていた際はこの考え方でした。

ただ問題は、採用担当者のコスト意識が低い場合。採用コストの節約よりも「採用数」を求められている中~大規模薬局ですね。ここに自主応募で行っても、特に採用されやすくはなりません。

そもそも専任の採用担当者がいる中規模以上の薬局の多くは、中途採用の目標を達成するために、転職エージェントの利用を想定した高めの予算設定をします。よって採用担当者のコスト意識が低いと、紹介手数料を節約できるからという理由で優先的に採用したいというモチベーションになりづらいのです。

なお、大学病院や一般企業などの人気求人の場合は、そもそも人材紹介会社経由ではエントリーできないケースが多いので「自主応募だと採用されやすい」というのは正確ではなく、「自主応募でないとエントリーできない」というのが正しいですね。

きちんとした人事制度がある会社の場合

「自主応募だと年収が出やすい」のほうはどうでしょうか?

これも、中規模以上の薬局では難しいと思います。きちんとした人事制度がある会社では、まず無理。条件は一律で決まっていますし、人事制度を特定の人のために曲げるということは難しいからです。例えば、午後6時までの勤務という人事制度の中で、その人だけ入社時から午後5時まで勤務にするというのは、大手ではまずやりません。

ただこれは裏を返せば、きちんとした人事制度がない会社であれば、交渉の余地があるということです。特に社長が人事を兼務しているような小さい薬局であれば、可能性はあります。例えば、

「他社も含めて検討していますが、御社へは自主応募ですし、年収の部分で少し上乗せのご相談ができるなら、転職活動をすぐに切り上げて御社に入社します」

こんな交渉をすれば、人手に困っている小さい薬局であれば乗ってくるかもしれません。

まとめ

  • 転職エージェントを使うと、転職活動が非常にラクになる。薬剤師業界では当たり前に使われているものなので、基本的には使わないと損。
  • 自主応募だと採用可能性が上がる、年収が出やすくなるのは基本、小規模の薬局。
  • 大学病院や一般企業などの人気求人の場合は、自主応募でないとエントリーできないことがあるので注意。

ちなみに、仮に私が現場の薬局薬剤師に戻るために転職をするとなった場合は、自主応募かリファラルを選択すると思います。

なぜ転職エージェントを使わないかというと、業界の動向とか、各社の内情などについても詳しく把握できている立場ですし、転職活動自体も、普段の業務でやっていることなので全く苦ではないですし、転職するとなったらまず決め打ちで、転職市場で評判の良い特定の会社に応募するからです。

このように自分で全部できてしまうとか、転職エージェントの担当者よりも正直、うまく折衝できる自信がある、みたいな場合も、自主応募のほうが良いですね。

まあ、あまり、あって欲しくはないわけですが……笑

もし「これって自主応募のほうが良いのかな?」という疑問をお持ちの薬剤師さんがいらっしゃいましたら、すぐ回答できると思いますので、弊社お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください!

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